私を捨てた人間だから。【オリジナル小説】【短編】

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オリジナル小説です。

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どうして、なんで。
あの女は、いつもそんな言葉を使っていた。
 
「どうして私ばっかりこんな目に会うのよ!!」
 
甲高い声で喚きながら、私を睨んで、
 
「なんで、あんたばっかりいい思いをするのよ!」
 
ソファに置いてあるクッションを私に向かって投げつけながら、涙を流していた。
 
今になって考えれば、
柔らかいクッションを投げつけていたのは、
彼女なりの優しさだったのかもしれない。
 
テーブルの上にはガラス製の灰皿もあったし、
ソファ横のミニテーブルには、プラスチック製の置き時計もあった。
 
その頃は、まだあの女に理性は残っていたのだ。
 
 
私が中学生になったと同時に、あの女は消えた。
特に困ることはなかった。
 
すぐに父方の祖父母に連絡を取って、保護してもらったのだ。
 
元々、祖父母から一緒に住むように言われていた。
 
けれど、私があの女を見捨てることができなかった。
あんな女に対して、情を持っている。
 
けれど、私はもう捨てられたのだから、
情をかけてやる必要はない。
 
 
可哀想な女だったのだ。
 
 
好きになった男は、私が産まれてすぐに死んでしまし、
資産家である男の実家からも見捨てられた。
 
元々望まれた結婚ではなかったのだから。
 
孫に当たる私だけ欲しいと言われ、
あの女は、意固地になった。
 
自分も一緒でなければ、娘は渡さない。
 
しかし、祖父母はどうしても、あの女がいらなかった。
けれど、孫は欲しかった。
 
 
なぜなら、孫の面差しが、
女帝と言われた先代当主の奥方にそっくりだったからだ。
 
この娘は優秀に違いない、と。
 
 
祖父母はあの女に隠れて、何度も会いに来た。
 
自分の母親であるあの女が、碌でもないことは十分に理解していたが、
それでも、私を産んだ人間なので、
 
「あの女が、私を捨てたら、あなたたちにもとにいく」と約束をした。
 
 
「あなたたちが、何もしなくても、私が15歳になるまでには、そうなるだろう」と告げて。
 
実際は、私の予定よりも早かったが、
驚くことはなかった。
 
 
あの女は、私が不幸であること、
悲しむことを望んでいたのだろう。
 
誤算だったのあれ、
女の思う不幸が、私に取っては不幸ではなかったことだ。
 
友達がいなくても平気というか、1人でいる方が好きだったし、
勉強は好きだったから、
女から「これをやれ」と押し付けられれう課題も、むかつきはしたけれど、嫌ではなかった。
 
小学生に中学生の問題集を渡した時は、少し呆れたが。
 
あの女が思う「されて嫌なこと」は、私には当てはまらなかったし、
嫌がらせもされたが、どうとでもできるレベルだったし、
 
看過できないものに関しては、スクールカウンセラーなどに報告を入れて、
いざという時のために記録を残した。
 
食事を与えられなくあても、祖父母から近くのスーパーやコンビニで使えるようにと電子マネーにお金を入れてもらっていたので、困ることもなく、
学用品も、それで購入できた。
 
 
よく考えれば、
あの女を見捨てられないと、一緒に暮らしてはいたものの、
全く相手にしていなかったな、と思う。
 
酷いことをしてしまった。
あの女が耐えられなくなったのも、当然だろう。
 
ただ、あの女は私を捨てたのだ。
中学生になったばかりの子どもを置いて、家に帰ってこず、家賃の支払いも滞らせた。
 
普通の子供は生きていけない。
つまり、あの女は、私を殺そうとしたのだ。
 
たまたま祖父母と私が繋がっていたから、なんとかなったが。
 
 
それでも、私を捨てたことに変わりはないし、
死のうがどうなろうが、どうでもいいと判断したのだとう。
 
この先、私は裕ふくな祖父母のもとで、
将来のことを踏まえて、さまざまなことを学び、「良き人材」となるだろう。
 
その時、あの女が私に縋ってくるかもしれない。
 
けれど、私は私を殺そうとした女に、何をしてやるつもりもない。
 
私が死ななかったのは、頑張ったからだ。
頑張らなかったら、あの女に見殺しにされていた。
 
だから、私もお前を見殺しにしてやるんだ。
 
 
どうなるかは、あの女次第。
あの女が、私のことなど忘れて、自分の人生を送れば、
この先、2度と関わることはない。
 
復讐が始まるかどうかは、
あの女が、私の視界に入るかどうか、で決まる。
 
 

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