情けは人のためならず③【オリジナル小説】【短編】
再婚相手は元同僚の父より3つ年下の可愛らしい人だった。
2人の話を聞くと母の虐待について彼女からアドバイスをもらっていたらしい。
つまり彼女がいなかったら、今の私は存在しない。
少しずつ彼女と打ち解けていき、仲良くなった。
「どうして、私を助けてくれたんですか?」
そう尋ねれば、彼女は服を脱ぎ出して背中に残る大きな火傷の痕を見せた。
実の親から受けた虐待の傷跡だと笑う。
父にその話をしたとき、
母と私のことを酒の席でポロリと口に出してしまい、それを聞いた彼女がブチ切れて怖かったと情けない顔をした。
翌日には会社で行うプレゼン資料よりも丁寧でわかりやすい分厚い紙の束を「一晩で作ってきました!」と隈の濃い据わった目つきで叩きつけられ「読まなかったどうなるかわかってるよな」と脅し文句を吐かれたらしい。
普段は控えめでいつもニコニコしている彼女からは想像できないくらい低い声でいうものだから、父は即座にそれを読んだとのことだ。
それからアドバイスをもらったり、喝を入れられたりしながら母から私を引き離すことに成功した。
「あの時の彼女は本当に恐ろしかった」と笑う父に、私も笑ってしまった。
それからも私のメンタルケアや、生活のことを相談していくうちに父が交際を申し込んだ。
初めは「私、虐待を受けた子を助けたい気持ちはあるけど、先輩に興味はありません」とバッサリ切り捨てていたが父のアプローチに根負けして交際が始り、結婚に至ったのだと聞く。
実の娘だからこと言わせていただくが、情けないぞ、我が父。
けれど、この人だったら父を任せられると思った。
結婚式は挙げなかったけど、入籍した日に3人で食事に行った。
「不束な父ですが、よろしくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ」
私は大学に行き、入学式から2週間後食堂でランチをしていると「赤ちゃんができました」と連絡が来た。
「この歳でお姉ちゃんか・・・」とは思ったけれど、素直に嬉しかった。
生まれたのは男の子で、私の弟だ。
このあとも、家族として笑ったり怒ったり、泣いたりしながら過ごしてきた。
弟が小学校4年生になった時、思わぬことが発覚した。
彼は私のことを「父の妹で、叔母」だと思っていたのだ。
歳が離れているから仕方ないし、子どもから見たら20歳を超えていたら全部同じに見えるのかもしれない。
姉だと懇切丁寧に説明して理解はしたみたいだけど、
彼にとっては叔母がいきなり姉に変わったので、少し戸惑っていたみたいだ。
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