情けは人のためならず②【オリジナル小説】【短編】
そして、今日も母に連れられていつもの病院は向かう。
いつものお医者さんに看護師さん。
母の言うことを、そのまま信じている人たち。
「少し顔色が悪いから、点滴をしていこうか」
そう言われて、処置室に案内される。
点滴を打たれてしばらくしたら眠くなり意識を失った。
目が覚めたら真っ白な空間で、父が私の手を握って泣いていた。
どうしたのだろうと不思議に思うとスーツを着たお姉さんが「もう大丈夫よ」と笑顔を見せる。
何が大丈夫なのだろうか。
私が目覚めた場所は病院で、2週間ばかり入院した。
父はずっと仕事を休んで付き添っている。
目覚めた時にいたスーツのお姉さんが少しずつ教えてくれた。
母は私を虐待したことで警察と児童相談所に連れて行かれたらしい。
母と私のことに異常を感じた父が通っていた小児科の医師に相談して、
確証をもった医師が通報したことで、このような経緯になったと。
母は私に嫉妬していたらしい。
自分より賢く、人にも好かれ、父からも愛されている私が憎いと警察で喚いていると聞いた。
そんな理由だったために、父は「自分が助けたら、もっと酷いことになる」と公的機関に頼ったそうだ。
証拠や確証はないのに警察も児童相談所も動けない。
だから父は耐えて耐えて、家にも帰らず私が傷ついているのを知りながら証拠が揃うまで待った。
探偵まで雇っていたらしい。
父が私のために、そうしたことは理解できる。
そうしなければならなかったことも判る。
けれど、受け入れることは難しかった。
「どうして、もっと早く助けてくれなかったの」
「私、辛かったんだよ」
「こんなに痛いのに、なんで!?」
そう言いたかったけれど、声になることはなかった。
その後、父と母は離婚した。
親権はもちろん父が獲得し、母は実家に戻ったと聞くがその後の情報はない。
父は仕事を辞めて、フリーランスとして家で仕事をするようになった。
私は通院しながら、リハビリをして普通に喋れるようになったのは3年後。
学校には行かず、家で勉強をして高卒認定試験を受けて大学進学することを目指している。
父とはそれなりにいい関係が築けているが、私の中の蟠りは消えていない。
父と完全に和解したのは父が再婚してからである。
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