情けは人のためならず①【オリジナル小説】【短編】

 

「ねえ、どうしたの?」

 

 柔和な笑みを浮かべて、彼女は言葉を発した。

 見上げた状態で、私は彼女ではない何処かを見ている。

 

「こんなに傷だらけで、痛かったでしょう。手当するから待っててね」

 

 頬にできた傷を撫でて、救急箱を取りに行く姿になんとも言えない感情が湧く。

 手当なんてしなくていいよ。

 だって、毎日のことだから。

 

 優しくなんてしないでよ。

 

 だって、これは貴女が殴ったからできた傷だよ。

 

 私を傷つけたのは彼女であるにも関わらず、彼女はそれを忘れてしまったらしい。

 

 戻ってきた彼女は消毒液をコットンに染み込ませて頬の傷を撫でる。

 傷が染みて体がびくりと反応した。

 

「ああ、痛いわよね」

「病院に行ったほうがいいかしら」

「いつも行く小児科ならまだ間に合うわね」

 

 彼女は私の母親である。

 父は仕事ばかりで家に帰ってこない。

 

「とりあえず、行きましょう」

「あなたに何かあったら、パパに怒られてしまうわ」

 

 自分が殴って怪我をさせたにも関わらず、彼女は平然と病院に連れて行く。

 そして「学校でいじめに合っているみたいで」と嘘をつくのだ。

 

 いじめなんて受けていない。

 貴女が私を学校に行かせないのに、どうやっていじめを受けるのだ。

 

 これは全部、貴女から受けた傷だ。

 

 自分で言うのもなんだが、小学生の頃から優秀と呼ばれる部類だった。

 勉強もできたし、絵画や読書感想文などでたくさん賞をもらった。

 学級委員も推薦されたし、成績表にはリーダーシップがあると書かれていた。

 

 私立中学に行く話もあったが、母が「義務教育くらいは伸び伸びさせたい」「この子は頭がいいから大丈夫よ」と言うので、公立中学に進学した。

 けれど、入学式の前日、母は豹変した。

 

「学校なんか行かなくていい!!」

 

 ただそう叫ぶだけで理由を教えてくれなかった。

 スマホを取り上げられて部屋に閉じ込められた。

 

 母の許可と同行がなければ、外に出ることはできない。

 

 父に「学校でいじめられているみたいで」「しばらくは自宅でゆっくりさせましょう」と言っているのを聞いた。

 

 貴女が私を閉じ込めているのに。

 あいかわらず仕事が忙しいが優しい父は自宅で勉強ができるようにオンライン家庭教師や、タブレットPCなどを用意してくれたが全て母に破壊された。

 

「あんたには必要ないのよ!」

 

 母が私を殴るようになり、父に「夜に抜け出して悪い友達といるみたいで」と不安そうな声を出して言っていた。

 父は「そうか」と言うだけであった。

 

 その言葉を聞いて、全てがどうでも良くなってしまい私の喉は音を忘れた。

 

 誰も味方になってくれないんだ。

 

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