「つまらない」は彼女が葛藤している証拠【オリジナル小説】【短編】
何かあるのかもしれないし。
何もないのかもしれない。
だからと言って、何もしないわけにもいかない。
それが、生きていくと言うこと。
自分の直感を信じるしかないし、
間違っていたとしても、なんとかするしかない。
たとえ、何が起ころうとも。
信じた道を進むしかないのだから。
「ああ、つまらない」
そう呟いた彼女は、ゴロンと床に倒れ込んだ。
いつものことなので、俺は無視をする。
「何がしたいのか、どうしたらいいのか、わからないわ」
回答を求めているわけではなく、
ただの独り言、彼女の自問自答だから、答える必要がないのだ。
答えたところで、彼女は無視をするのだから。
「面白いことはないのかしら」
「何もかもが順調すぎて、つまらない」
「隕石でも落ちてこないかしら」
そんなことを延々と呟く彼女の横で、俺はスマホゲームに興じている。
隕石が降ってきても、爆発が起きても「ふーん」と興味を示さないくせに。
彼女にとっての「面白いこと」がなんなのか、俺にはわからない。
順調すぎてつまらないなんて、贅沢な悩みでしかない。
彼女にとっては、最大の苦悩なのだから。
どうして「つまらない」なんて思ってしまうのか。
それは彼女が「有能」であり「飽き性」だからだ。
大抵のことは、サラッとできてしまう。
できないことは「できない」を割り切って、別の方法で賄ってしまう。
リスクマネジメントも対策もきっちりしているので、トラブルが起こってもサラッと解決してしまう。
そして、他人に余計な情をかけないから、容赦なく淡々と解決していく。
だから、彼女の人生は順風満帆だった。
俺から見たら「すごいな」としか思えないことなのだが、
彼女にとっては「簡単でつまらない」のだ。
賢くて強く、安定した生活を送っているが故に平和ボケとなっている。
それが限界に達した時、思いついた衝動のまま引越しをする。
飽きてつまらないから、環境を変えたいらしい。
それが数年単位で繰り返されている。
彼女の方が収入があるし、文句は言わない。
けれど、俺が勤めている会社からは「また引っ越したの?」と文句を言われた。
「引越しは、もう飽きたな〜」
「パートにでも出ようかなぁ。けど外部収入は面倒なんだよなぁ」
そんな言葉を聞き流すのは、もう慣れた。
こういう時の彼女は仕事のことで悩んでいる時だ。
気晴らしをして、リフレッシュしたいから言っている。
刺激的なことをしたいのだ。
バンジージャンプや、スカイダイビングがいいのだが、
元気そうに見えて体の弱い彼女には無理だ。
持病を抱えながらも、自分なりに考えて稼ぐ方法を見つけ、
俺よりも多く稼ぐようになったのだら、それは才能でしかない。
それでも、外出に制限のある体でありながらも、
好奇心があり、面白いことが大好きな彼女には全てがつまらなくなってしまうことがある。
「つまらない」と言う独り言は、彼女が葛藤している証だ。