もっと長く、サンタを信じていたかった。【オリジナル小説】【短編】
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オリジナル小説です。
※この作品は、フィクションです。
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もっと長く、サンタを信じていたかった。
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「ねえ、何歳まで信じてた?」
姪っ子が高校生になり、
通っている学校が、私の住んでいるマンションと近いこともあり、
時折、学校帰りの彼女を預かることがある。
迎えがくるまで、我が家で勉強したり、
ダラダラして過ごすことは、週に1、2回ある。
私は自宅で仕事をしており、
外出もあまりしないし、
趣味も相まって、漫画を大量に所持しており、
姪っ子が暇を持て余すこともない。
彼女が家に来るのは、だいたい午後5時くらい。
その頃には、私も休憩を挟むので、
2人でお茶を飲みながら、スイーツを食べて、
おしゃべりをする。
午後6時半には、書斎に戻る。
姪っ子は、リビングで宿題をしていて、
迎えが来る夜8時くらいまで、各々で過ごす。
仕事の邪魔をしてくることはない。
初めの頃は、話しかけてきたが、仕事に支障が出て、
一度、きっちり話をした。
それから、最初のティータイム以外は、特に話しかけてこない。
キッチンも自由に使っているし、食べ物も好きなように食べている。
故に、ティータイムの時は、何かと話題を振ってくるのだ。
「信じていたって何を?人間を?」
「サンタさんだよ。人間ってなんだよ」
高校生には、まだ早かったか。
「あんたは、何歳まで信じてたの?」
「4年生までかなぁ」
「結構、遅いのね」
「そんなことないよー。みんなそれくらいだって。今は騙すスキルが上がってるんですー」
サンタさんかぁ。
「というか、我が家はクリスマスプレゼントは現金支給だったからなぁ」
「まじで!?夢がない!!」
そう言われてもなぁ。
「それには事情があってねぇ」
あれは、私が幼稚園の頃だった。
2歳年上の姉は、小学校1年生。
サンタさんにお願いしたのは、当時流行っていた卵形の育成ゲーム。
私は、「本を買うお金」を頼んだが、親に止められて結局「図書券」を頼んだ。
可愛くない幼稚園児である。
言っておくが、この時はサンタを信じていた。
だが、物が欲しいとは思わなかったのだ。
この時のクリスマス、
私は、その時、興味を持っていた児童書の全巻セットをもらった。
願ったものではなかったが、興味を持っていたものだったので、
「まあ、いいか」と起きた瞬間からベッドの上で読み始めた。
姉が貰ったのは、願ったゲームではなく、
大きなクマのぬいぐるみだった。
姉は、大きな声で泣きまくった。
あとで聞いた話だが、
サンタさんへの手紙ではゲームを願ったが、
その後、ショッピングモールに行った時「これがいい」と言っていたそうなのだ。
この時の姉は手がつけられないくらい泣いて、親を困らせた。
あまりにうるさかったので、
親に「こういうことがあると困るから、サンタさんには来年からお金を持ってきてもらおう」と言ったことは、覚えている。
両親にも思うことがあったのか、
その翌年から、現金支給になった。
自分で言うものなんだが、可愛くない妹だっただろう。
両親は姉の方を可愛がっている。
結婚して、子どもが生まれて、孫が生まれて。
いつまでも独身を貫いている、妹の方には、特に干渉がない。
それで悩んだ時期があったかといえばあったけれど、
なんというか、読書が趣味であったこともあって、
すぐに解決してしまった。
姉は、両親から結婚を急かされ、子どもを急かされ、
孫が生まれたら、干渉されて。
ストレスが多いらしい。
本来なら、姪っ子は実家の方が近いのだが、
姉が嫌がって、私のところに預けている。
親から可愛がられる姉も、大変だ。
そして、本から得た知識で、それを受け入れて、
自己解決している私は、やはり可愛くない。
「結局、何歳まで信じてたの?」
思考に耽っていると、
姪っ子が、こちらをじっと見ていた。
「幼稚園の時には、サンタはいないと知っていたよ」
「えー、それじゃ、人生つまんないじゃん!」
姉が泣き喚いた一件で、気づいてしまったのだ。
あっちは、小学3年生くらいまで信じていてみたいだけど。
「確かに、世の中には知らない方が幸せなことがたくさんあるよねぇ」
それでも、知らなければならないことも多く、
無知は罪なのだけど。
大人になって、いろんなことを知って
得た知識をお金に変える。
知らない相手をうまく利用して、自分の利益を出す。
「知らない方が悪い」
「無知は罪」という見えない旗を背中に掲げて、笑う。
そんな大人がたくさんいるのだ。
何も知らずに、サンタを信じていられることは、
とても幸せなことだと思う。
私も、もっと長くサンタを信じていたかった。
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