温くなってもカフェオレは美味しい 【オリジナル小説】【短編】

 

 
 
夏が終わると寂しい。
 
暑くて、しんどくて。
電気代も嵩むし、外にも出たくない。
熱中症が怖い。
 
嫌だ嫌だと言っていたはずなのに、
夏が終わると寂しいと思ってしまう。
 
理由は特にない。
ただ、寂しいと感じる。
 
 
「人間ってさ。わがままだよね」
「何、いきなり」
 
秋が近づいてきて、
カフェのテラス席で。
 
「やっぱり、室内よりこっちがいいよね」なんて話をしていたのに、
私の言葉に、最近彼氏と別れたばかりの友人が訝しげな視線を寄越した。
 
「暑いのは嫌だ、最悪だって言っていたのに、夏が終わると寂しくなる」
「あんたって、余計な事考えるよね」
 
余計な事、なのだろうか。
 
「過ぎ去ったことを考えても仕方ないでしょ。どうせ1年経てば、また夏はやってくるし」
「そうだけどさ」
 
熱々だったはずのカフェオレは随分と冷めてしまった。
 
「まあ、どんなに憎まれていても寂しいと思う人がいるから、何度でも巡ってくるのかもね」
「詩人だねぇ」
「あんたのが移ったのよ」
 
お互いに笑いが込み上げてきて、隣に座っていたカップルから視線を感じた。
 
「今を一生懸命、なんとか生きていくしかできないんだよね」
「人間は無力だからね」
「じゃあ、今は大好きなカフェオレに集中します」
「そうしなさい」
 
温くなってしまったけれど、
それでも私の大好きな味でした。
 
  

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