消えかけて、生き返って、また消えた。④【オリジナル小説】【短編】

 家に帰ると、母親に引き止められた。
 大学の成績は親が満足するものだったし、咎められるようなことはしていない、はず。
 
 けれど、母は不機嫌そのもので、何かしたのだ、と理解した。
 
 基本的には成績さえ良好であれば、怒られることはないのだが。
 
 部屋に荷物を置いてリビングに行くと、テーブルに私に書いた小説の原稿が置いてあった。
 
「なんなの、これは」
「こんなものを書いている暇があるなら、将来のためになることをしなさい」
「遊ばせるために、大学に行かせているわけじゃないのよ」
「サークルも、辞めなさい」
 
 サークルに入っていることは言っていなかったはずなのに。
 おそらくは、私の部屋を漁ったのだろう。
 
「成績は落としてません」
 
 親に意見したのは、生まれて初めてだったかもしれない。
 
「は?何言っているのよ。当たり前でしょ!」
「別に、少しは好きなことしてもいいじゃない!」
 
 こんな大きな声を親に向けたのは初めて。
 母親は驚いたようだが「何言っているの?」と金切声を上げた。
 
「貴女のことを想って言っているのよ!?」
「親の金で大学に通っているのに、逆らうんじゃないわよ!」
「子供が親の言うことを聞くのは当たり前でしょ!?」
 
 こうなった母には何を言っても無駄なのだ。
 昔からそう。
 だから、私は親の言う通りに生きてきた。
 
「返事をしなさい!!」
「・・・わかりました。言うとおりにします」
「わかればいいのよ。これは捨てておくわね」
 
 満足そうに笑った母親は「今日はハンバーグカレーにしましょうね」とキッチンに消えていった。
 私がそれが好きだったのは小学生の頃だよ。
 今は、好きじゃないよ。
 だって、私に言うことを聞かせるために作るものでしょ。
 
「お母さん、ありがとう」
「いいのよ。貴女のためなんだから」
 
 ああ、こうして私は心を殺すのだ。

 

終わり。

 

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