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第3話 興味がないから、人の顔など覚えられない。③

 

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 そんなわけで、私の退勤1時間前はレジとお客さんとのコミュニケーションが業務になるのだ。

 正直な話をすれば、人と関わることが苦手なので顔も覚えることができないから、声や会話の内容、表情の作り方、身体の動かし方から「あの人だ」と判断しているのだが、このことは誰にも言っていない。

 言ったら傷つけてしまうことがわかっているからだ。

 はっきり言ってしまえば、顔だけでは付き合いの長い店長すら判別できない。

 人と関わりたくないと思いながらもコンビニという接客業をしているかといえば、「嫌いなことほど仕事にしたほうがいい」という言葉を鵜呑みにしたからだ。

 その言葉も間違いではないのだと実感している。

 嫌い、苦手と思いながらも、それを仕事だと割り切ればなんでもすることができるし、笑顔を作ることができる。

 自分でもどうしようもない人間だと感じるけれど、それが私だから仕方ない。

 働かないと生活できないし、仕事は責任をもってしなければならない。

 だから、私は笑うことができるのだ。

「こんにちは、恵梨香さん!」

 デザイン系専門学校の女の子が笑顔で入ってきて私に手を振る。

「こんにちは、今日も可愛い服ですね」

 ファッションには詳しくないので、ブランドもどんな種類も名前もわからないが、自分に似合う服装がわかっているのだなと感心するくらい彼女に自然と馴染んでいる。

 どこの地域でも同じだと思うが、服飾系、美容系やデザイン系を学んでいる若い人たちの服はオシャレだ。

 私には似合わないし、着る勇気もない。

 こういう服はお金がかかるのもあるが、私はシンプルでラフな服装が好きなのだ。

「ありがとうございます!」

 声と、彼女の喋り方の癖、私に話しかけるときに片足を少しだけ出す仕草を見て、「いつもの子だ」と判断した。

 嬉しそうで可愛らしい笑顔の彼女は、いつも楽しそうにしている。

 課題の締め切りとか先生がうるさいとか言っていることは多いが、それすらも楽しそうに見える。

 学校が終わって飲み物を買ってからバイトに向かうそうだ。

 前に私の顔を見てからバイトに行くと頑張れると言ってくれたことがあった。

 嬉しい言葉ではあったけれど、それ以上に「私なんかに、そう思ってはダメだよ」という気持ちが膨らんだ。

 

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