
第3話 ケーキの数だけ新しいことが起こる
「葉月ちゃんっていうのね」
都さんは、なんだか不思議な人だ。
初めてあったにも関わらず、この人と一緒にいると、なんだか落ち着く。
はっきりといえば、こんな寂れたところで、よくわからない店をしている人を信用していいのかと聞かれれば微妙な話ではあるのだが。
それを踏まえてでも、気を許してしまうのだから、本当に不思議だ。
「本は好き?」
「いえ、漫画ばかり読んでます」
「もったいないなぁ」
古本屋を営んでいるだけあって、彼女は本が好きなのだろう。
私が漫画ばかり読んでいるといったとたん、がっかりした顔をした。
それでも、周りの大人たちみたいに「本を読まないから、バカなんだ」なんてことは言わない。
ただひたすらと、本の良さについて熱弁はしているけれど。
けれど、都さんが最後に言った言葉は、なんだか私の心に響いた。
「葉月ちゃんが、読みたいって思ったとき、そう感じた本が、あなたの心が必要としている本だから。そのときには、絶対に読んでね」
本を読めと押しつけがましいわけでもない。
きっと、これはアドバイスなのだろう。
そんな本に出合う時が、私にあるのだろうか。
「ケーキ、もっと食べる?」
「…食べたいです」
「正直でよろしい」
私のお皿に2つ、都さんのお皿にも2つ、チーズケーキが乗せられた。
「ここ夕方には閉めちゃうから、2人で全部食べようね」
ケーキの箱には、あと2つケーキが残っていた。