
第4話 理不尽でも仕事なら受け入れる。
朝は必ず太陽の光を浴びる。身体を目覚めさせるためだ。
起きたらすぐにカーテンを開けて朝日を浴びて深呼吸をすることが何年も続く日課だ。
晴れていれば窓を開けて風を感じて、雨の日は窓ガラスに当たる雨の音を聞く。
自然の恵みを感じないと1日が始まった気がしない。
いつからそうなったのかは自分にもわからないけれど、そうしないと1日中、気分が暗くなってしまうことに気付いたのは2年くらい前だ。
それから、意識的に行うようにしている。
今日も朝からシフトに入っているから、それまでに身体を目覚めさせなくてはいけない。
朝ごはんを食べてから身体を少し動かして、仕事に入ったら、すぐにテキパキと動けるように身体を作る。
フリーターだからと言っても仕事は仕事なのだ。
働かなくては食べてはいけないのだからと、私はそれが当たり前だと思っている。
お金を貰う仕事をしているのに、働かない頭や身体でいることはしたくない。
これは私のルールだから人に押し付けたりはしない。
私が私のために守っているルールだ。
ある程度の稼ぎがあると言っても、所詮はフリーター。
節約を心掛けているし、自炊もする。
私の性格なのかもしれないが、自分の身になにが起こるかわからないので、ある程度の貯蓄は必要だ。
かといって、どこかに正社員として勤める気もない。
私には、この生活が合っているし、気が楽だ。
店長からは「真面目になりすぎるな」と言われることもあるが、それでも不安は拭えない。
それに、人と関わることを避けているからお金を使うこともないのだ。
窓の外を眺めていると、コンロにかけたやかんから湯気が噴き出す音が聞こえた。
朝一番に紅茶を飲むのだ。
スーパーで売っている安いものだが、私にはそれで充分だ。
美味しいと感じているし、それで気持ちが安らぐのだから値段なんて関係ない。
なんでも身の丈であることが大切で、無理に背伸びをすることはしたくない。
朝ごはんにホットケーキでも焼こうかと考えていたら、携帯が鳴った。
友だちもいないので、仕事の連絡しかこない携帯だから恐らく店長だろう。
コンビニの近くに住んでいるので、急に出勤してくれという電話はたまにある。
案の定、店長からだった。
こんな朝早くにどうしたのだろう。最悪、朝ごはんは食べられないかもしれない。
「おはようございます」
「あ、おはよ。ごめんね、朝早くに」
後ろから子どもの声が聞こえるので、まだ自宅にいるのだろう。
「いえ、なにかありましたか?」
「今日、あなたお休み」
意味がわからなくて、言葉が見つからなかった。
それに、いきなり休みと言われても困る。
私は働いた時間分しかお給料が出ないのだから、急な休みは困るのだ。
「だから、今日は私に付き合って」
余計に意味がわからないのだが、店長の性格から言って反論しても無駄だろう。
もう諦めるしかない。
「わかりました」
「物分かりがいいわねぇ」
電話越しでも楽しそうにしていることがわかって、少し腹が立ったが感情を露わにしたところで疲れるだけだ。
だから、私は誰に対しても怒ることをやめてしまった。
「少し買い物に付き合ってほしいのよ。あなたにも関わることだから一緒がいいと思って」
「ポップのことですか?」
「まあ、そんなところね。お給料は出すから」
そう言われれば断る理由など無い。
というよりも、仕事の一環なのだから休みではないとは思うが、店内業務ではないのだからバイトの身としては休みのようなものなのだろうか。
「10時に駅前いてもらっていい?」
「わかりました。なにか必要なものはありますか?」
仕事に必要な買い物だし、私の関わっているポップのことなので必要なものがあるかもしれないと思って聞いたのだが、答えは「特にない」だった。
少し疑問もあったが、店長なりの考えがあるのだろうと大人しく頷いた。
「では、10時に駅前で」
電話を切って一息つく。
家を出る時間までなにをしようか。仕事に行くしか能がない人間だから、急に時間ができてもなにをしていいのかわからない。
とりあえず、朝ごはんにホットケーキを焼いて食べたけれど、そのあとはどう時間を使っていいのかわからない。
少し考えてから読みかけの本を読むことにした。
紅茶を入れてから時間になるまで読んで、買い物の帰りに図書館で新しい本を借りてくればいいのだ。
することがないときは本を読めばいい。それが、私のためになることもある
本の世界は現実に起きたことを、夢であったかのように錯覚させてくれる。
だから、本の世界にのめり込んでしまうのかもしれない。
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