【オリジナル小説】 都合のいい神様は存在しません。 小説

【都合のいい神様は存在しません。】 第11話

 



「話は終わったみたいだね」
「哲也さん、いろいろとありがとうございます」
 
私とお父さんの話が終わると、都さんの旦那さんが声をかけてきた。
 
「気にしないでくれ。だが、これで例の件は引き受けてくれるな?」
「もちろんです。そういう条件でしたから」
 
例の件とはなんだろう。
私は、お父さんに不利益を与えてしまったのだろうか。
 
「ああ、そんな不安そうな顔をしないでくれ。大したことじゃない」
 
私のことをチラリと見てから、なにかを差し出してきた。
 
「俺は、こういうものだ」
 
渡されたのは名刺で、お父さんの勤めている会社の名前が書いてあった。
西城哲也さんという名前らしい。
ということは、都さんの苗字も西城なのだろう。
 
「…代表取締役?ということは、社長さん?」
「一応ね」
 
驚くべきことなのだろうけれど、いろいろなことがありすぎて感覚が鈍っている。
 
「緑川さん、君のお父さんを昇進させようとしたんだけどね。娘の様子が気がかりで、それどころじゃないから待ってくれと言われていたんだ」
「哲也さん、その話は…」
「家族思いでいいじゃないか。君がそういう人間だから、任せようとしているんだ」
 
お父さんたちは、さっきまでとは表情が違う。
これが、仕事をしているときの大人の顔なんだ。
 
「まあまあ、仕事の話は会社でしなさいよ」
 
都さんはトレイを持って、カウンターに戻ってきた。
 
「葉月ちゃん、おかわりは?」
「あ、いただきます」
「そろそろお昼になるし、みんなでなにか食べましょう。今日のランチはミートパスタよ~」
 
ここランチメニューとかあったんだなぁ。
 
「お手伝いしましょうか?」
「じゃあ、お願いしようかな。みんな、適当に待っててね~」
 
お父さんたちは、奥の席へ移動してジョージさんを含めた3人で、なにかを話し始めた。
 
「ビックリしたでしょ~?あんなのが会社のトップだなんて」
「あ…いや……」
「気にしないで。普段着で作務衣なんか着てるし。ただの変人よ」
「あれ、作務衣って言うんですか?」
 
都さんは、きょとんとした顔をしてから納得したように説明してくれた。
 
「今の若い子には馴染みがないかもねぇ。哲也くんはもともとお寺のお坊さんだったから、あのほうが落ち着くらしいのよ」
「お坊さん、だったんですか」
「結局、自分には向かないって辞めて起業したのよね」
 
世の中には、いろんな人がいると数日で理解したけれど、不思議なことには変わりはない。
 
「なんか、よくわからないです」
 
なにがわからないのか、自分でもよくわからない。
けれど、なにかよくわからないのだ。
 
「いいんじゃないかしら?私だって、この歳でもわからないことだらけよ」
「…大人って、なんでも知っていると思っていました」
 
私の言葉に、悲しそうな顔をして、笑った。
 
「そうね。”大人はなんでも知っているんだ”って勘違いしている人もいるわ。けどね、17歳だろうが、30歳、80歳だろうが、知らないことのほうが多いのよ」
「勘違い、なんですか?」
「私は、そう思ってる。だから、私は勘違いした大人にはなりたくないの」
 
 
そう言った都さんの言葉は、とても優しくて心強く感じた。
 
今まで出会った大人の中で、彼女が最高に素敵だと。
本当に、そう思った。
 
 
 

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泪-rui-

主婦です。

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